インスペクションとは、簡単にいえば建物の状態を診断するサービスです。
日本の住宅市場では、今後さらに中古住宅の流通が盛んになるとみられているため、建物の状態を診断してくれるインスペクションの重要性は増すと考えられます。
本記事では、インスペクションの意味や費用、メリット・デメリットを分かりやすく解説します。

遠鉄の不動産・浜松北ブロック長 影山 裕紀(かげやま ひろき)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、ITパスポート
「インスペクション」とは?
インスペクションとは「調査」や「検査」などを意味する言葉です。
住宅の売買におけるインスペクションとは「建物状況調査」や「住宅診断」ともいわれます。
インスペクションでは、住宅に精通した「ホームインスペクター」が、第三者の立場で目視や動作確認などを用いて住宅を検査します。
ホームインスペクターによる診断を受けることで、建物の欠陥や修繕・交換が必要な箇所が把握できるのです。
インスペクションの流れと検査項目
インスペクションは、住宅の売主と買主の両方が依頼できます。
インスペクションを依頼する流れは、以下のとおりです。
- 業者への問い合わせ・見積もり
- 申し込み
- 平面図や立面図など必要書類の送付
- 現地でインスペクションの実施
- 報告書の受け取り
- 代金の支払い
インスペクションの検査項目は、以下のとおりです。
- 構造耐久上主要な部位:基礎、壁、梁、柱、小屋組、床、土台など
- 雨水の侵入を防止する部分:外壁、内壁、天井、屋根など
- 設備配管に日常生活上支障のある劣化等が生じているもの:給排水管の漏れや詰まり
インスペクションでは、足場を組むことなく歩行やその他通常の移動できる範囲で、目視や計測を中心とした検査が行われます。
特別な依頼を除いて、建物の壁に穴をあける検査は行われません。
ただし機械を使用して家の傾きやシロアリ被害、雨漏りなどを確認する場合があります。
インスペクションの費用の目安
インスペクションの検査費用は、検査項目や請負業者、住宅の規模などで異なります。
目視を主体とした検査の場合、インスペクションの費用は3〜8万円が目安です。
機械を使った検査や耐震性能の測定などをすると、インスペクションの実施費用が10万円を超える場合もあります。
「長期優良住宅化リフォーム推進事業」を申請すると、補助金を受け取ってインスペクション費用の負担を軽減できる可能性があります。
長期優良住宅化リフォーム推進事業の補助金額は、インスペクション費用や性能向上リフォーム工事に要する費用などの合計の1/3です。(1戸につき100万円が限度)
自治体によっては、独自の補助金制度を実施している場合があるため、確認してみるとよいでしょう。
また住宅を売却しようと考えている方は、売主に対して無料のインスペクションサービスを実施している不動産会社を探すのも方法です。
「遠鉄のあんしん仲介」では、対象の住宅で「建物状況調査・既存住宅設備保険」を無償で実施!
インスペクションは義務化されている?
2018年に宅地建物取引業法が改正されたことで、宅建業者に以下のタイミングで売主や買主に対してインスペクションを説明する義務が生じました。
- 不動産会社と媒介契約を結ぶとき
- 売主や買主に対して重要事項を説明するとき
- 売買契約を締結するとき
説明が義務化されたのは、インスペクションの普及が目的です。
日本は、中古住宅よりも新築住宅のほうが人気です。
中古住宅は、外観や築年数だけでは内部の劣化がわからず、買い手が不安を抱えやすいためです。
インスペクションが実施された物件は、第三者によって品質が保証されているため、買主が安心して購入しやすくなります。
そのためインスペクションの説明を義務化し、普及を促すことで中古住宅が売れやすくなると考えられます。
ただし義務化されたのはインスペクションの説明のみであり、実施が義務化されたわけではありません。
民法改正によりインスペクションの重要性が増加
2020年4月から民法が改正され、不動産の売主は「契約不適合責任」を負うことになりました。
契約不適合責任とは、住宅が買主へ引き渡されたあとで、売買契約書に書かれていなかった欠陥が発覚した場合、売主が責任を負うことです。
契約不適合責任により、売主は欠陥の存在を知らなかったとしても、売買契約書に記載されていなければ責任を負わなければなりません。
そのため売主は、不動産を売却する前にインスペクションを実施し、住宅の欠陥を把握する重要性が高まったといえます。
インスペクションを行うメリット
インスペクションを行うメリットは、以下の3点です。
- 物件が早く高く売れる可能性が高くなる
- 売買契約をしたあとのトラブルが少なくなる
- 買主は購入後の資金計画を立てやすくなる
説明が義務化されたとはいえ、中古住宅市場にはインスペクションが未実施である物件が多数流通しています。
インスペクションが実施された物件は「プロが品質を検査した物件」という付加価値が付くため、買い手がつきやすいうえに高値で売却できる可能性もあるのです。
またインスペクションが実施されていると、買主は建物の状態や欠陥の有無を把握したうえで住宅を購入できるため、取引後に売主とトラブルに発展しにくくなります。
加えて修繕が必要な箇所がわかり、買主がリフォーム費用の資金計画を立てやすくなるのも、インスペクションを実施するメリットです。
インスペクションを行うデメリット
インスペクションには、以下2点のデメリットがあります。
- コストや時間がかかる
- 必ずしも安心できるとは限らない
インスペクションの費用は、一般的に数万円かかり、検査の内容によっては10万円を超えます。
できるだけ多くの売却益を手にしたいと考えて、インスペクションを実施しない売主は少なくありません。
またインスペクションが実施されていても、欠陥がないと断言できない点にも注意が必要です。
特に目視のみによる検査の場合、床下や屋根裏など建物の見えない部分で劣化が進んでいるかもしれません。
インスペクションを実施する場合は、費用をかけてでも床下や屋根裏を検査しておくとよいでしょう。
また「既存住宅売買瑕疵保険」に加入したり、無料の瑕疵保証がある不動産会社に仲介を依頼したりすると、取引後に建物の欠陥が発覚しても一定額までの補修費用が補償されます。
インスペクションの依頼先は?
インスペクションの依頼先は、大きく分けて以下の3点です。
- 不動産会社
- リフォーム会社
- インスペクション専門業者
インスペクションは、利害関係のない専門業者に依頼するのが一般的です。
なおインスペクションを依頼する業者は、価格の安さだけで選ぶのではなく、会社の実績や過去に検査してきた建物の種類をチェックしたうえで選ぶことが大切です。
【まとめ】インスペクションの有用性を理解してスムーズな売買を!
インスペクションの実施には、一般的に3〜8万円の費用がかかり、検査内容によっては、10万円以上の費用がかかることもあります。
費用はかかるものの、インスペクションを実施することで、物件が売れやすくなるだけでなく、引き渡し後のトラブルを回避できる可能性があります。
これから住宅を売却しようと考えている方や、中古住宅を購入しようとしている方は、インスペクションを活用してみてはいかがでしょうか。
(執筆者:品木 彰)