不動産を売却した際には「税金がかかる」とイメージしている方は多いでしょう。
しかし「どんな税金がいくらかかる」と具体的なところまでわからず、悩んでいませんか?
この記事では、不動産売却時にかかる税金について解説します。
後半では税金対策、確定申告の方法についても説明していますので、ぜひご覧ください。
影山 裕紀(かげやま ひろき)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、ITパスポート
不動産売却にかかる税金は?
不動産の売却で発生する税金は、次のとおりです。
- 譲渡所得税・住民税
- 印紙税
- 登録免許税
ひとつずつ説明します。
譲渡所得税・住民税
不動産売却で利益が発生すると、その所得に対して譲渡所得税と住民税が課せられます。
譲渡所得税額は次の順に計算します。
- 譲渡所得額を計算する
譲渡所得額=譲渡価額−譲渡費用−取得費 - 課税譲渡所得額を計算する
課税譲渡所得額=譲渡所得額−特別控除額 - 譲渡所得税額を計算する
譲渡所得税額=課税譲渡所得×税率(所得税・住民税)
売却する不動産を所有していた期間によって「短期譲渡所得(所有期間5年以下)」と「長期譲渡所得(所有期間5年超)」の2種類に分けられ、それぞれ税率が異なります。
所有期間 | 所得税率 | 住民税率 | |
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30.63% | 9% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15.315% | 5% |
(引用元:国税庁ホームページ)※上記税率には復興特別所得税が合算されています。
所有期間が10年を超えた場合は軽減税率が適用されます。
所有期間 | 課税譲渡所得額 | 所得税率 | 住民税率 | |
10年超所有軽減税率の特例 | 10年超 | 6000万円以下の部分 | 10.21% | 4% |
6,000万円超を超える部分 | 15.315% | 5% |
(引用元:国税庁ホームページ)※上記税率には復興特別所得税が合算されています。
譲渡所得税は確定申告で支払う必要がありますが、住民税は申告不要です。
確定申告後に住民税の納付書が送付されてくるので、届き次第納税しましょう。
印紙税
不動産の売買契約書には「収入印紙」を貼る必要があり、これにかかるお金のことを印紙税といいます。
印紙税は不動産の売却価格に応じて高くなり、この価格は国税庁のウェブサイトで確認できます。特定の条件を満たす契約書については、軽減税率が適用されます。
契約金額と印紙税を表にまとめました。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
10万円超~50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円超~100万円以下 | 1,000円 | 500円 |
100万円超~500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円超~1000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
1000万円超~5000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
5000万円超~1億円以下 | 60,000円 | 30,000円 |
1億円超~5億円以下 | 100,000円 | 60,000円 |
5億円超~10億円以下 | 200,000円 | 160,000円 |
10億円超~50億円以下 | 400,000円 | 320,000円 |
50億円超 | 600,000円 | 480,000円 |
登録免許税
不動産の購入時にローンを利用した場合、ローンの返済が滞ったときに銀行が自由に不動産を差し押さえることができる権利「抵当権」が発生します。
抵当権を抹消しないと不動産の売却はできません。ローンを完済し、不動産登記に設定された抵当権を抹消します。
抵当権抹消にかかる登録免許税は、不動産1件あたり1,000円です。
ただし手続きは一般的に司法書士に依頼するケースが多く、その場合は登録免許税に加えて司法書士への依頼料も発生します。
不動産売却時の税金対策
不動産売却にともなう税金を、なるべく安く抑えたい方は「節税方法」についてもチェックしましょう。
ここからは不動産売却後の税金対策について、4つのポイントをご紹介します。
譲渡費用・取得費の計算はしっかり行う
譲渡所得税・住民税の税額は、課税譲渡所得額に税率をかけて計算されます。
課税譲渡所得=譲渡価額−譲渡費用−取得費−特別控除額
つまり譲渡費用と取得費をもれなく計上して、課税譲渡所得額を抑えることが節税に繋がります。譲渡費用と取得費として認められる費用を表にまとめました。
譲渡費用への計上が認められる費用 | 取得費にできる費用 |
|
|
※上記費用のうち、事業所得で経費として計上しているものは除外となります。
節税のためにも譲渡費用と取得費はしっかり計算しましょう。
控除や特例を活用する
不動産売却後に譲渡所得が出た場合、利用できる特例は3つあります。
- マイホーム(居住用財産)売却の特例(3,000万円の特別控除)
- 所有期間が10年以上の場合の軽減税率の特例
- 先行取得資産に係る買換えの特例
「3,000万円の特別控除」と呼ばれるマイホーム(居住用財産)売却の特例を利用すると、譲渡所得に対して3,000万円までは課税対象から除外されます。
ふるさと納税で節税する
自分が選んだ自治体に寄付をすることで、返礼品やサービスが受け取れる制度が「ふるさと納税」です。
寄附金額から自己負担金(2,000円)を引いた金額が、所得税と住民税から控除されます。不動産売却においても、税金控除が受けられる貴重な制度のひとつです。
不動産売却による譲渡所得が発生し「ふるさと納税」で節税する場合は、控除上限額の試算が必要です。
ふるさと納税による不動産売却後の節税について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
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損益通算、繰越控除を活用する
不動産売却で損をした(譲渡所得がマイナスになった)場合は、不動産売却にかかる譲渡所得税や住民税は発生しません。
しかし次の特例を利用することで、その他の税金対策が可能です。
- マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
不動産売却時の損失は、必要な条件を満たしていれば「損益通算」によって、同年のその他の収益と相殺できます。
また売却した年の所得よりも損失(譲渡損失)額が大きいときは「繰越控除」が利用できます。繰越控除を利用すると、最長4年間の所得税や住民税を軽減できるケースもあります。
損益通算と繰越控除について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
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不動産売却後に確定申告する方法
不動産売却後に譲渡所得が出た場合は、確定申告が必要です。
また譲渡所得がマイナスであっても、税金の特例を利用する場合には確定申告が必要です。
確定申告は次の流れで進めます。
- 必要書類の準備
- 譲渡所得税額の計算
- 確定申告書等の記入
- 税務署への提出
確定申告の詳しい手順や、必要書類について知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
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不動産売却時の税金シミュレーション
ここからは具体的な数字を用いて、不動産売却時の税金(譲渡所得税・住民税)のシミュレーションを行います。
所有期間4年のマイホームを売却した例
- 取得費:3,500万円
- 譲渡費用:200万円
- 譲渡価額:3,000万円
=マイナス
この場合、譲渡所得がマイナスになるため譲渡所得税は発生しません。
損益通算や繰越控除の特例を検討しましょう。
所有期間6年のマイホームを売却した例
- 取得費:3,500万円
- 譲渡費用:200万円
- 譲渡価額:5,000万円
=1,300万円
この場合、3,000万円の特別控除を適用すると譲渡所得から3,000万円までが控除されるため、課税譲渡所得額は0円です。そのため譲渡所得税は発生しません。
所有期間11年のマイホームを売却した例
- 取得費:2,000万円
- 譲渡費用:100万円
- 譲渡価額:6,000万円
=3,900万円
この場合、3,000万円の特別控除を適用すると譲渡所得から3,000万円までが控除されるため、課税譲渡所得額は900万円です。
10年超所有軽減税率の特例を適用し税額を計算すると、以下のようになります。
=約128万円
まとめ
不動産を売却した際には、複数の税金が発生します。
しかしマイホーム購入者を対象とした税金の軽減措置があるため、しっかり対策をすれば節税できます。
税金の計算に不安のある方は、不動産会社にシミュレーションの相談をしてみましょう。