「物件を売った後の確定申告には、どんな書類がいるの?」
不動産売却後には、確定申告が必要になる場合があります。
申告時期や必要書類など申告前に知っておきたい重要な情報も少なくありません。
この記事では不動産売却後の確定申告について、必要な書類や申告時期、確定申告が不要なケースなどについて解説します。

遠鉄の不動産・中遠売買ブロック長 岸本 圭祐(きしもと けいすけ)
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、カラーコーディネーター、ファイナンシャルプランナー3級
不動産売却後の確定申告は必要?不要?
不動産売却をしたあと、必ず確定申告をしなければならないケースと、確定申告が不要なケースがあります。
それぞれの条件について解説していきます。
確定申告が必要な場合
不動産売却後に確定申告が必要になる条件についてみていきましょう。
不動産売却で譲渡所得が生じている場合
不動産売却によって利益(譲渡所得)が出た場合は確定申告を行いましょう。
譲渡所得とは、売却代金から取得費や諸経費を差し引いたあとに残った利益を指します。
譲渡所得の金額に応じて譲渡所得税がかかるため、課税額を計算し確定申告を行い期限までに税金を納める必要があります。
税金の特例を利用する場合
不動産売却後、税金の特例を利用する場合には確定申告が必要です。
税金の特例には、次のものがあります。
- マイホーム(居住用財産)売却の特例(3,000万円特別控除)
- 所有期間が10年以上の場合の軽減税率の特例
- 先行取得資産に係る買換えの特例
不動産売却代金から必要な経費を差し引いて売却益がマイナス(譲渡損失)となるケースでは、次の特例を利用することが可能です。
- 居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 居住用不動産に買い換えに係る譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例
不動産売却で損(譲渡損失)が出た場合、その年の確定申告は基本的には不要です。 しかし税負担を軽減する特例の利用により、計算結果がマイナスになるのであれば、確定申告が必要となります。 今回は不動産売却で損をしても確定申告が必要[…]
どの特例を利用するかによって、確定申告に必要となる書類も異なります。
確定申告が不要な場合
売却益が譲渡損失となった場合(譲渡所得がマイナスになる場合)、かつ税金の特例を利用しない場合は確定申告が不要になります。
不動産売却後の確定申告の手順
ここからは、不動産売却後の確定申告の手順について説明します。
手順①必要書類の準備
確定申告に必要となる書類は、税務署で手に入る申告書と自分で用意する書類があります。
必要書類の提出忘れがあると、税務署から問い合わせが来るなど確定申告がスムーズに進まないこともあります。
抜け漏れがないように、必要な書類を事前にチェックしておきましょう。
必要書類の詳細は次の章で詳しく述べます。
手順②譲渡所得税額の計算
譲渡所得税額を計算します。
譲渡所得税額は次の3ステップの計算方法で算出できます。
1.譲渡所得額を計算する
譲渡所得額=譲渡価額(売却代金+固定資産税等精算金)−譲渡費用−取得費
※譲渡費用と取得費については、後の章で詳しく説明します。
2.課税譲渡所得額を計算する
課税譲渡所得額=譲渡所得額−特別控除額
3.譲渡所得税額を計算する
譲渡所得税額=課税譲渡所得×税率(所得税・住民税)
譲渡所得の税率は、給与など他の所得とは別に計算される分離課税が適用されており、不動産の用途や売却前の所有期間などによって異なります。
主な税率の分類は下記のとおりです。
- 短期譲渡所得:所有期間が5年以下の不動産
- 長期譲渡所得:所有期間が5年を超える不動産
所有期間 | 所得税率 | 住民税率 | |
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30.63% | 9% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15.315% | 5% |
(引用元:国税庁ホームページ)※上記税率には復興特別所得税が合算されています。
また、所有期間が10年以上の場合の軽減税率の特例によっても税率が変わります。
所有期間 | 課税譲渡所得額 | 所得税率 | 住民税率 | |
10年超所有軽減税率の特例 | 10年超 | 6000万円以下の部分 | 10.21% | 4% |
6,000万円超を超える部分 | 15.315% | 5% |
(引用元:国税庁ホームページ)※上記税率には復興特別所得税が合算されています。
手順③確定申告書等の記入
税務署で入手、または国税庁のホームページからダウンロードした下記3種類の用紙に必要事項を記入します。
- 確定申告書B
- 申告書第三表(分離課税用)
- 確定申告書付表兼計算明細書(譲渡所得の内訳書)
用紙に直接書き入れる方法のほか、パソコンから国税庁のホームページにある確定申告書等作成コーナーで入力するやり方も便利です。画面案内に従って入力するだけで、数値の計算や必要箇所への反映が自動で行われるため、比較的簡単に作成できます。
手順④税務署への提出
手順③で記入した書類とそのほかの添付書類をまとめて所轄の税務署に提出します。
提出方法には次の3つがあります。
- 郵送で税務署に送付する
- 税務署へ直接持参して窓口に提出する
- 国税電子申告・納税システム(e-Tax)で申告する
e-Taxはオンライン上で提出を済ませることができ、申告期間中は24時間提出が可能です。さらに譲渡損失が出た場合は、送付や窓口提出よりも3週間ほど早く税金の還付を受けられる可能性もあります。
e-Taxで確定申告をする場合は、事前に電子証明書を取得し、電子申告等開始届出書を税務署に提出しておく必要があります。
確定申告の必要書類
ここからは確定申告に必要となる書類についてまとめます。
税務署から入手する書類
- 確定申告書B
- 確定申告書第三表(分離課税用)
- 確定申告書付表兼計算明細書(譲渡所得の内訳書)
自分で準備する書類
- 住民票(不動産売却時、登記名義人の現住所と登記上の住所が異なる場合)
- 売却物件の売却時の売買契約書(コピー)
- 売却物件の購入時の売買契約書(コピー)
- 仲介手数料、印紙税などの領収書(金額が分かる書類)
- 建築当時の請負契約書(注文住宅の場合)
- 特例の利用に必要な書類
特例の利用に必要な書類は、登記事項証明書や除籍住民票(契約日前日における住民票の住所と状とした不動産の所在地が異なる場合)などがあげられます。
利用する特例ごとに提出書類が異なりますので、詳しくは不動産会社に相談してみましょう。
また確定申告書は、必ず手続きを行う年のものを使いましょう。
前年度の用紙を使いまわした場合、用紙の変更箇所が反映されていないなどの理由で再提出を求められる可能性があります。
不動産売却の確定申告で認められる経費とは?
不動産売却後の確定申告で重要になるのが経費の計上です。経費を正確に漏らさず計上できれば、支払う税金を抑えることもできます。
ここからは経費として計上できる費用、できない費用について説明します。
経費計上が認められる費用
不動産売却における経費(譲渡費用)や、取得費として認められる費用をまとめます。
譲渡費用への計上が認められる費用
- 売却時の仲介手数料
- 土地の測量費用
- 売買契約書の印紙税費用
- 売却に伴い支払った立ち退き料
- 建物の解体費用
取得費にできる費用
- 土地購入代金
- 建物取得費用(購入代金から減価償却費を差し引いた金額)
- 購入時の仲介手数料
- 購入時の不動産取得税
- 購入時の登録免許税や登記手数料
- 売買契約書の印紙代
- 固定資産税精算金(その年の買主負担分として支払った分)
- 抵当権設定の登録免許税や登記手数料
- 設計変更費用・建築確認申請料
- 増改築リフォーム費用
- 建物に付随する設備費・改良費
- 建物等の取壊し費用
- ローン事務手数料
- ローン保証事務手数料
- ローン金利(ローン借入日〜所有開始分)
- ローン保証料(ローン借入日〜所有開始分)
- 団体信用生命保険料(ローン借入日〜所有開始分)
- 締結された購入契約を解除するための違約金
- 所有権確保に要した訴訟費用(遺産分割は除く)
上記費用のうち、事業所得で経費として計上しているものは除外となります。
経費計上が認められない費用
経費計上が認められない費用についてもチェックしましょう。
譲渡費用への計上が認められない費用
- 抵当権抹消登記費用
- 相続登記費用
- 建物の修繕費用・清掃代
- 固定資産税
- 税理士の報酬
- 町会費
- 引越し費用
- つなぎローンの金利
- つなぎローンの事務手数料
- 家電・家具・カーテン代など
- 管理費・修繕積立金など
- 火災保険料(家屋・家財・地震など)
- インターネット加入料・CATV利用料
不動産売却後の確定申告、時期はいつ?
不動産売却後の確定申告は、通常物件を譲渡した年の翌年2月16日から3月15日までの間に行います。
確定申告は毎年1月1日から12月31日までの間に生じた所得を、翌年に税務署に申告し正しく納税するための制度です。申告期間を過ぎてしまった場合、あるいは申告を忘れてしまった場合は、罰則として無申告加算税などが課されることがあります。
不動産売却をする人は上記の期間に確実に申告できるように、早めに確定申告の必要書類を準備しましょう。
まとめ
不動産売却後に確定申告が必要な場合と不要な場合についてまとめます。
【確定申告が必要なケース】
- 不動産売却で譲渡所得(利益)が出たとき
- 税金の特例を利用するとき
【確定申告が不要なケース】
- 不動産売却で譲渡損失が出たとき(譲渡所得がマイナスになったとき)
ただし譲渡所得がマイナス(損失)になった場合でも、税金の特例を利用する際は確定申告が必要です。確定申告書の提出期間は限られているため、早めに必要書類の準備を行い忘れずに提出しましょう。