マイホームの購入を考えている方にとって、とくに気になるのが「住宅ローンの金利が今後どうなるのか」ではないでしょうか。
結論をいえば、住宅ローンの変動金利は今後もしばらくは低水準が続くでしょう。
固定金利については、2023年にやや上昇したものの、2024年には再び下がる可能性があります。
本記事では、2023年までの住宅ローン金利がどのように推移し、2024年以降にどうなっていくのかを考察します。
遠鉄の不動産・浜松ブロック長 石岡 靖雅(いしおか やすまさ)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、相続支援コンサルタント、家族信託コーディネーター、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
そもそも住宅ローン金利はどう決まる?
住宅ローン金利には、大きく「固定金利」と「変動金利」の2種類があります。
変動金利は、返済期間中に世の中の金利状況によって借入金利が変わる可能性があるタイプです。
固定金利は、返済開始から一定期間または全期間にわたって金利を固定するタイプを指します。
まずは固定金利と変動金利が何を指標に決められているのかを解説します。
固定金利は「新発10年物国債の金利」を指標に決められる
固定金利の主な指標は、新発10年物国債の金利です。
新発10年物国債とは、新たに発行された償還期限(債券の額面金額が返還される日)が10年である国債のことです。
国債は金融商品であるため、新発10年物国債の金利は、投資家の予測の影響を受けやすいという特徴があります。
また10年国債の金利は、日銀(日本銀行)のイールドカーブ・コントロール(YCC)という政策により、おおむね0%程度で推移するように操作されています。
変動金利は「短期プライムレート」を指標に決められる
金融機関の多くは、短期プライムレートを変動金利の指標としています。
プライムレートは、業績や財務状況などが優良な企業に貸し出す際の最優遇貸出金利です。プライムレートのうち、貸出期間が1年以内の融資に適用される金利を短期プライムレートといいます。
短期プライムレートは、日本銀行(日銀)が金融政策によってコントロールする政策金利※の影響を受けます。
※金融機関が日銀に預ける当座預金の一部に適用される金利
2023年までの住宅ローン金利はどう推移した?
続いて、2023年までに住宅ローン金利がどのように推移したのかを解説します。
変動金利は年々低下
2023年までの変動金利は、年々下がっており底値ともいえる低金利を更新し続けています。
変動金利が低水準である主な要因は、日銀が政策金利をマイナス0.1%にする「マイナス金利政策」の影響で短期プライムレートが低くなっているためです。
また近年は、金融機関同士の金利引き下げ競争が激しさを増しており、借入金利(実際の返済額を計算する際に用いる金利)を0.3%台前後にする金融機関も増えてきました。
住宅ローンの借入金利は、各金融機関が決める基準金利から金利の引き下げ幅(優遇幅)を差し引いた値となります。
2008年ごろから、変動金利の基準金利はさほど変化していませんが、金融機関が優遇幅を引き上げてきているために、変動金利は年々下がっている状況です。
固定金利は低水準で推移するも2023年にやや上昇
イールドカーブ・コントロールが開始されたあと、10年国債金利は低く抑えられていたため、住宅ローンの固定金利は長らく低水準で推移していました。
一方で日銀は、10年国債金利を0%程度で推移するようコントロールするとはいいながらも、2022年11月までは「±0.25%」までの変動は許容するとしていました。
2022年12月には10年国債金利の変動幅を「±0.5%」に拡大し、さらに翌2023年10月には、上限を1.0%に変更しています。
変動幅が変更されたのは、急激なインフレを抑えるために利上げをする米国との間で大きな金利差が生じたことが主な要因です。
変動幅の拡大により、10年国債の金利が上昇したことで、2023年の固定金利は上昇傾向にありました。
一方で、10年国債金利が一時的に下がり、固定金利が引き下げられることもあったため、先の予測が難しくなっていました。
住宅ローン金利は今後どうなる?上がる可能性は?
2024年以降の住宅ローン金利は、上がる可能性があるのでしょうか。
変動金利と固定金利の今後を考察します。
変動金利は今後もしばらくは上がらない
日銀がマイナス金利政策をはじめとした金融緩和政策を実施する目的は「2%の物価安定目標」を達成するためです。
2%の物価安定とは、簡単にいえば賃金の上昇を伴いながら、モノやサービスの価格が毎年2%ずつ上昇する状態のことを指します。
2%の物価安定目標はまだ達成されていない
住宅ローンの変動金利が上昇するのは、2%の物価安定の目標が達成され、マイナス金利が解除されたときです。
総務省の調査によると、2020年を基準とした消費者物価指数は、以下のとおりです。
※画像引用:総務省「2020年基準 消 費 者 物価指数 全国2023年(令和5年)11月分」
上記のデータのうち、日銀が見ているのは「生鮮食品を除く総合」と「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」であり、そのどちらも近年は前年同月比が2%を超えています。
一方、物価の上昇を考慮した賃金(実質賃金)は、2023年11月の速報値で前年同月比3.0%であり、20か月連続のマイナスとなりました。
※出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和5年11月分結果速報」
つまり、物価は上昇しているものの賃金の上昇がそれに追いついていないため、2%の物価安定の目標は達成されておらず、金融緩和を解除できる状況にはないのです。
また日銀は、物価の上昇が今後減速すると予測しています。
マイナス金利政策を解除するためには賃金の上昇が必要
2024年2〜3月ごろに行われる春闘では、全体として前年を上回る賃上げが労働者から企業に要求される方針です。
大企業だけでなく中小企業でも賃上げが行われ、モノやサービスにお金を使いたいと思う人が増えれば、物価も上昇してマイナス金利政策が解除されるかもしれません。
しかし、その一方で日本の景気は緩やかに回復してきているものの、好景気とまではいいがたい状況であり、マイナス金利政策が解除されるまでにはまだまだ時間がかかるでしょう。
たとえ解除されたとしても、政策金利が0%に引き上げられるだけにとどまり、変動金利にはさほど影響しないかもしれません。
以上の点から、変動金利は今後もしばらくは低水準で推移すると考えられます。
ただし金融機関によっては、金利引き下げのキャンペーンが終了することで、借入金利が引き上げられる可能性があります。
2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現が見通せるようになったことが変更の理由です。
今後は短期金利(無担保コールレート・オーバーナイト物)が0.0〜0.1%程度で推移するよう促す政策となりますが、日銀は当面のあいだは緩和的な金融環境が続くとしています。
固定金利は予測が困難
近年の米国では急激なインフレが発生しており、FRB(米連邦準備制度理事会)はそれを抑えるために、政策金利を段階的に引き上げていました。
一方の日本では、日銀の金融緩和政策により低金利の環境が続いていたため、米国との金利差は拡大していっていたのです。
そのため、投資家が「日本も利上げをするのではないだろうか」と予測して取り引きしたことで、10年国債金利に上昇圧力がかかりました。
イールドカーブ・コントロールによる10年国債金利の変動幅の上限が、0.25%から0.5%、1.0%と拡大し、固定金利が上昇したのには、こうした背景があります。
しかし、2023年の後半から米国のインフレは落ち着き始めており、2024年には利下げが開始される可能性があるともいわれています。
米国が利下げを開始して日本との金利差が縮小すれば、10年国債金利にかかる上昇圧力が弱まることで、住宅ローンの固定金利が引き下げられるかもしれません。
ただし、10年国債の金利は日米の金利差だけでなく、日本の景気などさまざまな要素で変わるうえに、米国のインフレが収まったと断言できるわけでもありません。
そのため、2024年も固定金利は毎月上下する可能性があります。
2024年以降に住宅ローンを組むときのポイント
2024年以降に住宅ローンを組む場合、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。
最後に、これから住宅ローンを組む人が押さえておきたいポイントを解説します。
変動金利を選ぶ場合は繰上返済資金を準備する
住宅ローンの返済額は、基本的に借入残高と借入金利に応じて決まります。
金利が上昇したときに繰上返済をして借入残高を減らすと、返済負担の増加を抑えることが可能です。
変動金利型の住宅ローンを組むのであれば、金利上昇時に繰上返済ができるよう、計画的に資金を準備すると良いでしょう。
固定金利にする場合は融資実行時の金利上昇を想定する
住宅ローンの借入金利は、物件が引き渡された時点で決まります。
不動産の売買契約を結んでから物件が引き渡されるまでは、数週間から1か月程度かかるのが一般的です。
固定金利を選ぶのであれば、物件が引き渡されたときに借入金利が上昇している可能性も考慮して資金計画を立てることが大切です。
【まとめ】住宅ローン金利は今後どうなるかわからない!慎重に検討を
変動金利と固定金利のどちらも、2024年に大きく上昇する可能性は低いといえます。
ただし、住宅ローン金利の今後を正確に予測するのは専門家でも困難です。
とくに変動金利を選ぶのであれば、返済途中で金利が上昇したときに返済負担を抑えるための繰上返済資金を準備しておくことをおすすめします。
不動産会社や金融機関などとよく相談し、ご自身の資産状況や価値観などに合った金利タイプを選んだうえで、慎重に資金計画を立てることが重要です。
(執筆者:品木 彰)